and/or

英文契約書でand/orという表現がされることがあります。JEXで契約書翻訳を学んできた方は、これを「または」と訳すとご存知だと思います。しかし、英文契約書について書かれた多くの参考書では、and/orを「および/または」と訳しています。ではJEXでand/orを「または」としているのはなぜなのでしょうか。今回はこの点について説明します。
「および」も「または」も法律用語です。状況によって、「ならびに」「もしくは」と使い分ける必要があります(わからない方は法律用語辞典で確認しておきましょう)。しかし、「および/または」という法律用語はありません。とはいっても、法令でも「AもしくはBまたはその両方」という状況を表現しなければならない場合があります。実はそのような場合、法令では「または」という表現を使っているのです。

これは、元内閣法制局長官の林修三さんの著書「法令用語の常識」にも説明されています。以下に紹介いたします。

『まず第一は、英語の「and(or)」にあたる場合、すなわち、「又は」と「及び」の両方の意味を与えようとする場合はどうするかという問題があるが、現在の立法例では、この場合には、原則として「又は」を使うことになっている。したがって、実定法上の「又は」ということばは、場合によっては「and (or)」の意味で使われていることもあることに注意しなければならない』(日本評論社 林修三著「法令用語の常識」第3版11Pより引用)

つまり、日本語の「または」という表現には「および」の意味も含まれているのです。「Aさんか、またはBさんに確認してください」という表現は、AさんとBさん両方に確認してはいけないというわけではないことからもわかると思います。

and/orを「または」と訳すのは、最初は抵抗があるかもしれません。しかし、法律用語としての裏づけがあるということを覚えておいて、是非、正しく訳すようこころがけてください。
(執筆:吉野弘人)