失敗に学ぶ

最近、「失敗学のすすめ」(畑村洋太郎著:講談社)という本を読みました。「失敗は成功の母」というように、失敗の中からこそ人は何かを学ぶことができます。しかし、人は失敗を恥じ、隠そうとしてしまい、なかなか失敗から学ぼうとはせず、そして、また新たな失敗を犯してしまいます。この本の著者は、失敗を前向きにとらえ、これを新たな技術向上の機会にすることを提唱しています。著者は大学の工学部の教授で、この考え方も、もともとは技術に関する研究として始めたそうですが、現在では、ビジネスの世界など、他のあらゆる分野でも応用できるものとして注目されています。そして、もちろん翻訳にも応用できます。

翻訳者が納品する訳文を翻訳会社のほうでチェック・修正し、それが翻訳者にフィードバックされることがあります。翻訳者はフィードバックされた訳文の誤りや修正点を確認することで、次からの仕事に生かすことができます。しかし、翻訳者にとって、フィードバックは通知票のようなもので、見るのがこわいというのが正直なところです。既に納品し、完了した仕事であり、できれば悪い知らせは見たくないものです。しかし、失敗と向き合わなければいつまでたっても進歩はありません。翻訳者になった後も、翻訳者としての能力を高めるためには、フィードバックが教えてくれる失敗を技術の向上に結び付けることが重要です。

翻訳者がフィードバックを次の仕事に生かすのと同じように、翻訳を勉強している人も契約書翻訳の通信教育の解答・解説を確認し、添削で直された部分ももう一度調べるなどして、次の答案に生かしてください。うまく訳せたところはその内に忘れてしまいますが、間違えたところはいつまでも覚えているものです。スポーツでも、負けた試合にこそ学ぶものが多いといわれています。誤りを指摘されることによって、かえって身につくのです。また、減点された部分だけでなく、単に修正された部分もなぜ修正されたのかを考えてみてください。修正されたということは、間違いとはいえないものの、修正された表現の方がベターだということです。A級やプロ養成ではそのようなちょっとした表現の違いがポイントになってきます。残念ながら、中には同じ間違いを何度も犯し、ただ漫然と回数をこなしているだけのような方も見受けられます。同じ間違いを何度も繰り返してしまう原因は、添削の結果や解答・解説を次の答案に生かせていないということなのです。まず添削された答案をしっかりと見直し、間違った部分をもう一度確認してください。また、疑問点は質問票を使って質問してください。間違い(失敗)を肯定的にとらえ、次の課題提出にいかせる人だけが上達することができるのです。今は失敗を恐れず、たくさんの失敗をしてください。そして、その失敗と正面から向き合ってください。皆さんのご健闘を期待しています。
(執筆:吉野弘人)